「ロイ(黒後愛)が笑顔でバレーボールをやっていることが嬉しい」
埼玉上尾メディックスの大久保茂和監督が折に触れ、よく話していた言葉だ。

今回ギリシャのAEKアテネに移籍が決まった黒後愛選手だが、埼玉上尾メディックスでの3シーズンは人との出会いに恵まれたようだ。
周知のことではあるが、黒後選手は東京オリンピック後にコンディションを崩し、時間をかけてコートに復帰したという経緯がある。
その後、Vリーガーとしてデビューし活躍した東レアローズ滋賀を離れ、埼玉上尾メディックスに移籍した。
埼玉上尾メディックスは多くの現役復帰選手を抱えるチームだ。引退からのカムバックもあれば、出産を経て戻ってくる選手もいる。
その流れは黒後選手の加入後さらに加速して今に至るが、母体が病院ということもあり、もともと人を包み込む慈愛の土壌があったのかもしれない。

「笑顔が増えた」
埼玉上尾でプレーする中で、黒後選手本人にその実感はあったのか尋ねると次のように話してくれた。
「周りの人に”楽しそうにバレーをやっている”って言われる機会が増えました。それが(自身の)実感にもつながっているかなと思います」
同年代の存在も支えになった。
「同級生がとても多かったっていうのもありますね。常に5人いるような感じで。それはすごく大きかったなって思います。」
一学年後輩で、同じ高校出身でもあるリベロ・岩澤実育選手も時を同じくして海外に挑戦する。
岩澤選手の移籍先はアメリカ。移籍は岩澤選手の方が先に決まった。黒後選手の移籍は本人の話から推察するにおそらく市場がクローズする直前の決断だったと考えられる。
同時期に海外挑戦することに対して2人の間にはどんな会話があったのだろうか。
「(岩澤選手は)私が海外挑戦をしたいっていうことを知っていたので、(移籍先が)近くなったら会えるねとか話していました。でも離れてしまったので(笑)」

ところで、黒後選手には、世界の女子選手の中で目標とする選手がいるのだろうか。
今、誰が一番すごいプレーヤーだと思っているのか尋ねると、しばし考えたうえで「ガビ」の名前を挙げた。
ガビ=ガブリエラ・ギマラエス。ブラジル代表の主将であり、世界ナンバーワンのアウトサイドヒッターである。身長は181センチ。日本人から見ても体格的に大きな差はない選手である。
「ガビ選手。プレーヤーとしてもそうですし、人としてもすごいなって。セナ(関菜々巳)がイタリアで一緒にプレーしていたんですけれども”人格者”だって話してくれて。身近にいる人にそう感じさせるってすごいな、と。そういう思いを持ってガビ選手を見ています」
撮影 堀江丈