
いよいよ本日9月4日、北九州市立総合体育館でロサンゼルスオリンピックの切符をかけた「バレーボール男子アジア選手権」が開幕した。残念ながら女子は今大会で切符を逃したものの、3位に入り来年のワールドカップ出場権を掴み取った。男子には女子の無念も晴らすべく、ぜひホームの利を活かして自力で出場権をもぎ取ってほしい。
石川祐希主将は今年、日本開催のホームゲームについて度々こう言及してきた。
「日本開催という独特の雰囲気にも慣れることができて」(VNL大阪ラウンド)
「日本のホームでやらせてもらえることで、その雰囲気にもまず慣れて」(ブラジル親善試合)
「日本開催という割と独特な雰囲気を、まず味方につけて」(公開練習)
この「日本独特の雰囲気」という言葉の裏には、一体何があるのだろうか。
海外のアウェイは「地獄」。実体験で知ったホームアドバンテージの恐怖
日本には「公正・謙譲」を美徳とする文化があり、それ自体はとても誇らしいことだ。しかし、一歩海外に出れば「ホームの利」は徹底的に使い倒される。
筆者の初海外取材だった2002年世界選手権アルゼンチン大会。現地アルゼンチンの試合では、会場が揺れるほどの熱狂的な応援と、対戦相手(日本)への凄まじいブーイングが飛び交った。それだけではない。2次ラウンドでアルゼンチンと同組になった途端、日本チームには試合がない日の練習体育館が一切割り当てられなくなった。
当時の全日本団長・森田淳悟氏が現地協会に何度も掛け合ったが、答えはノー。結局、現地にプライベートで来られていた松平康隆名誉会長の伝手を頼り、日系人が勤める小学校の体育館を急遽借りて練習する有様だった。
また、過去にイランで開催されたアジア選手権でも同様だ。筆者が現地取材していなかった2000年代の大会では、イラン以外の試合日時や順序が当日まで分からず、他国はコンディション作りすら困難な状況に追い込まれたという話を帯同者から聞いた。
さらに前回のアジア選手権イラン大会(2023年)の際は、私自身も取材に赴くべく最後まで粘ったものの、大使館のビザ発行手続きが進まず断念せざるを得なかった。しかも、当初予定されていたテヘランから、直前になって飛行機が週3便しかない高地の都市へと開催地が変更。高地特有のボールの弾みに苦しむ他国をよそに、事前に十分な練習を積んでいたイランが優位に立つという徹底ぶりだった。
その大会の決勝では、日本に大幅にリードされて腹を立てた現地の観客がサーブに下がった髙橋藍選手にペットボトルを投げつけ、兄の髙橋塁選手が「うちの大事な弟になにしてくれとんねん」と激怒したシーンも記憶に新しい。
ちなみに、ロンドン五輪予選の際、日本の試合時間が一定であることに対して海外の記者や監督たちが「日本優遇だ」と不満をぶちまけていたことがあった。自分たちの国では平気でそれ以上の不公正な環境を作るくせに、アウェイに行けば徹底的に「不公平だ」と声を上げる。海外のチームとは、それほどまでに「ホームの利」の大きさを知り尽くし、貪欲に勝利を追求してくるのだ。
「公式演出」だからと付き合う必要はない――礼儀正しさが、時に選手を惨めにする
振り返って、我が国・日本の会場はどうだろうか。
数年前から国際バレーボール連盟(FIVB)が管轄する大会では「ビッグモーメント」と呼ばれる場内演出が定着している。サービスエースが決まれば「エース!エース!」、ブロックなら「モンスターブロック!」、強烈なスパイクには「ファイアボール!」といった音声や映像が流れ、観客にコール&レスポンスやスティックバルーンを叩くよう促す仕組みだ。
問題は、相手チームが好プレーを決めたときの「ビッグモーメント」にまで、日本の観客が律儀に付き合って「エース!エース!」と大歓声を送ってしまうことだ。ホスト国としてこれ以上ないほど礼儀正しいのだが、筆者は以前から強烈なもどかしさを抱いていた。
サッカーやバスケのファンからすれば、対戦相手の得点や好プレーを会場全体で盛り上げる行為は信じられない光景だろう。先日のブラジルとの親善試合ならフレンドリーマッチだからまだ良い。しかし、今回はオリンピック切符がかかった、選手たちが命がけで戦う真剣勝負だ。
日本がエースをとられて気落ちしている瞬間に、味方であるはずのホームの観客から相手を称える「エース!エース!」の大歓声とスティックバルーンの音が響き渡る。これが選手たちにどう映るか。
だいぶ以前のことだが、代表選手からこんなオフレコの愚痴を聞いたことがある。
「自分たちが得点されたときに相手を応援する声を聞くと、『なんで!あんたらどっちの味方なの!』って惨めな気持ちになる」
「海外の選手は『日本はやりやすい。ブーイングもないし応援までしてくれる』って言ってますよ」
世界選手権を連覇したポーランド代表元主将のクビアクでさえ「会場みんなが応援してくれるホームゲームがどれほど力になるか」と語っていた。どんなに経験豊富な選手であっても、ホームの大声援は最大の味方であり、相手へのレスポンスは心理的な打撃になりかねないのだ。