
学校体育館断熱プロジェクト実行会議が立ち上げた「脱!サウナ体育館プロジェクト」。スポーツ界全体で体育館の「断熱・エアコン整備」を訴えるこの取り組みに賛同し、自身も「監督が怒ってはいけない大会」の主宰や日本少年野球連盟(ボーイズリーグ)で活躍するバレーボール元日本代表の益子直美さんに、体育館の現状と課題について詳しくお話を伺いました。
夏季のイベントは「1大会のみ」しか受けられない現状
——「脱!サウナ体育館プロジェクト」の活動に賛同されたきっかけを教えてください。
益子直美さん(以下、益子):競泳オリンピアンの井本直歩子さんが中心となって、アスリートから気候変動やスポーツ環境改善を発信しようという素晴らしい活動です。
私自身、日本スポーツ協会の少年指導に関わったり、「監督が怒ってはいけない大会」を開催したりしていますが、実は夏のシーズンはエアコンのない体育館でのイベント依頼をすべてお断りしているのが現状です。
子どもたちが一番時間を取れる夏休みに活動したいのに、熱中症の危険があって開催できない。現在夏場に開催できているのは、アステモさんが体育館にエアコンを設置して下さっている茨城県のリヴァーレさんの体育館(1会場)だけなんです。大きな市営体育館などを借りようとすると多額の費用(エアコン代・施設使用料)がかかってしまい、予算のハードルが非常に高くなってしまいます。
子どもたちがスポーツを楽しみたい時期に環境が整っていないというのは、本当に歯がゆい思いがあります。
「エアコンだけ」では効かない。「屋根の断熱」が予算と電気代を抑えるカギ
——今回のプロジェクトでは「断熱×空調」をセットで導入することが提案されています。
益子:私自身も今回勉強して驚いたのですが、小中学校の教室にはエアコンがほぼ100%ついているのに、体育館は後回しにされていますよね。しかも自治体の方は「体育館にエアコンをつけるには何億円もかかる」と思い込んでいることが多いんです。
ですが、国の予算なども活用し、「屋根の断熱改修」とセットで行えば1500万〜2000万円程度で実施できるということが分かりました。断熱をしないままエアコンをつけても冷気が逃げてしまい電気代がかさみますが、屋根の断熱をするだけでも室温の上昇を大幅に抑えられ、エアコンの効きも良く電気代も抑えられます。この知識を全国の自治体に知ってもらうことが本当に大切だと感じました。
豪華なプロ用アリーナの一方で、置き去りにされる「学校・地域の体育館」

——地方ごとの環境格差についても言及されていましたね。
益子:そうなんです。東京都は体育館のエアコン設置率が95%を超えているのに、地方に行くと極端に低く、例えば佐賀県などは1%未満(0.8%)というデータもあります。
最近は各地でプロスポーツ向けの立派な新アリーナが建設されていて、それはとても素晴らしいことです。佐賀にもSVリーグのホームアリーナがあり、それはもちろん素晴らしい環境で冷暖房完備ですがその一方で、一般の子どもたちや市民が使う「学校の体育館」や「生涯スポーツの場」への投資が後回しにされているという強い印象を受けます。
さらに、地球温暖化による豪雨や震災などで、体育館は「地域の指定避難所」になりますよね。熊本地震などでも問題になりましたが、避難所となった体育館にエアコンがないために避難生活で熱中症になってしまう。スポーツのためだけでなく、「地域の防災拠点・市民の命を守る場所」としても、格差なく全国の体育館に環境整備をするべきなんです。
「暑い夏のインハイで勝ってこそ本物」という昭和の古い価値観を卒業しよう
——益子さんご自身の現役時代の体験や、スポーツ界の意識について思うところはありますか?
益子:昔話になりますが、私が共栄学園高校時代、春高バレーで準優勝した後に迎えた夏のインターハイでは、1回戦か2回戦であっさり負けてしまったんです。当時、バレー界には「冬の春高で勝ってもダメ。暑い夏のインターハイを制してこそ本当の王者だ」という風潮(根性論)がありました。「暑さに耐えてへばったところからもう一踏ん張りする」といった時代だったんですね。
ですが、今の猛暑は当時とはレベルが違いますし、命を奪ってしまう危険があります。指導者の方々も「WBGT(暑さ指数)31度以上は原則運動中止」というガイドラインを徹底し、無茶をさせない意識をもっと強く持たなければなりません。
海外の選手たちが自由に自分を表現してプレーしているように、日本も「我慢や苦痛に耐えるスポーツ」から卒業するべきです。現役のバレーボール選手やトップアスリートたちも、もっと声を上げてこの環境改革の輪に加わっていってほしいなと思っています。
【益子直美(ますこ・なおみ)】
東京都出身。共栄学園高校時代に日本代表に選出され、「マコちゃん」の愛称でバレーボールブームを牽引。引退後はタレント、スポーツキャスターとして活躍するほか、一般社団法人日本がんサバイバーシップネットワーク理事、少年スポーツにおける「監督が怒ってはいけない大会」の主宰など、持続可能で正しいスポーツ環境の普及に尽力している。